最高裁判決を紹介しています。
このコーナーでは最高裁の判決を紹介していますが、最高裁の裁判官がどんな人なのかを、まずご紹介しておきます。15人の裁判官は、以下からご覧下さい。
⇒最高裁の裁判官
事件番号 H30(行ヒ)422
事件名 所得税更正処分取消等請求事件
裁判年月日 令和2年3月24日
法廷名 最高裁第3小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻
裁判要旨
取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき,当該株式の譲受人が財産評価基本通達においてその株主が取得した株式は配当還元価額によって評価するものとされている株主に該当することを理由として,配当還元価額によって評価した額であるとした原審の判断には,同項の解釈適用を誤った違法がある。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89339
全文
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/339/089339_hanrei.pdf
事件番号 平成28(受)1255
事件名 養子縁組無効確認請求事件
裁判年月日 平成29年1月31日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成27(ネ)5161
原審裁判年月日 平成28年2月3日
専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない
日本ヒューレット・パッカードが精神面の不調から出社しなかった書院を諭旨退職とした処分の妥当性が争われていたが、最高裁第2小法廷は処分を無効とした高裁判決を支持し上告を棄却しました。
従業員の欠勤が就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たるとしてされた諭旨退職の懲戒処分が無効であるとされた事例
裁判要旨
従業員が,被害妄想など何らかの精神的な不調のために,実際には事実として存在しないにもかかわらず,約3年間にわたり盗撮や盗聴等を通じて自己の日常生活を子細に監視している加害者集団が職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを行っているとの認識を有しており,上記嫌がらせにより業務に支障が生じており上記情報が外部に漏えいされる危険もあると考えて,自分自身が上記の被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ使用者に伝えた上で,有給休暇を全て取得した後,約40日間にわたり欠勤を続けたなど判示の事情の下では,上記欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たるとはいえず,上記欠勤が上記の懲戒事由に当たるとしてされた諭旨退職の懲戒処分は無効である。
精神的な不調のために欠勤を続けている労働者に対して使用者が治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採ることなく直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。
本文は以下から見ることができます。
⇒判決文
直前と同様の判決です。
平成23(行ヒ)104
所得税更正処分取消請求事件
平成24年01月16日
最高裁判所第一小法廷 判決
1 所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」の支出の主体
2 法人が保険料を支払った養老保険契約に係る満期保険金を法人の代表者が受け取った場合において,上記満期保険金に係る当該代表者の一時所得の金額の計算上,上記保険料のうち当該法人における保険料として損金経理がされた部分が所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとされた事例
3 国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとした原審の判断に違法があるとされた事例
法人が契約者となり保険料を支払った養老保険契約に基づき満期保険金の支払を受けた個人が、法人が支払った保険料の全額が一時所得の金額の計算上控除し得る「その収入を得るために支出した金額」に当たるとして所得税の確定申告をしたところ、所轄税務署長は、保険料のうちその2分の1に相当する部分(個人に対する貸付金として処理された部分)以外は「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした。
第1審である福岡地裁は納税者勝訴の判決、控訴審である福岡高裁は会社が支払った保険料の全額が「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとして納税者の主張を退けていた。
今回の最高裁判決では、
所得税法が規定している所得金額の計算方法は、個人の収入のうちその者の担税力を増加させる利得に当たる部分を所得とする趣旨であり、一時所得についてその所得金額の計算方法を定めた34条2項が「その収入を得るために支出した金額」を一時所得の金額の計算上控除するとしたのは、一時所得に係る収入のうちこのような支出額に相当する部分が個人の担税力を増加させるものではないことを考慮したものと解される
とし、
「支出した金額」とは、一時所得に係る収入を得た個人が自ら負担して支出したものといえる金額をいうと解するのが趣旨にかなうものである
として、納税者の主張を退ける判決となりました。
本文は以下から見ることができます。
⇒判決文
下級審判決は以下からご覧下さい。
福岡高裁判決
⇒判決文
福岡地裁判決(TAINSから掲載)
⇒判決文
なお、平成23年度の改正で、この最高裁判決のように処理しなければならなくなっています。
(参考)
(平成23年度改正で追加)
所得税法施行令183条第4項3号に追加されました。
(3) 事業を営む個人又は法人が当該個人のその事業に係る使用人又は当該法人の使用人(役員を含む。次条第三項第一号において同じ。)のために支出した当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金で当該個人のその事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金額又は当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上必要経費又は損金の額に算入されるもののうち、これらの使用人の給与所得に係る収入金額に含まれないものの額(前二号に掲げるものを除く。)
損害保険契約についても、184条第3項が同様に改正されています。
今年最初の最高裁HPに掲載された判決です。
平成21(行ヒ)404
所得税更正処分等取消請求事件
平成24年01月13日
最高裁判所第二小法廷 判決
1 所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」の支出の主体
2 会社が保険料を支払った養老保険契約に係る満期保険金を当該会社の代表者らが受け取った場合において,上記満期保険金に係る当該代表者らの一時所得の金額の計算上,上記保険料のうち当該会社における保険料として損金経理がされた部分が所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとされた事例
会社が契約者となり保険料を支払った養老保険契約に基づき満期保険金の支払を受けた個人が、会社が支払った保険料の全額が一時所得の金額の計算上控除し得る「その収入を得るために支出した金額」に当たるとして所得税の確定申告をしたところ、所轄税務署長は、保険料のうちその2分の1に相当する部分(個人に対する貸付金として処理された部分)以外は「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした。
第1審である福岡地裁及び控訴審である福岡高裁はいずれも会社が支払った保険料の全額が「その収入を得るために支出した金額」に当たるとして納税者の主張通りの判決をした。
今回の最高裁判決では、
所得税法が規定している所得金額の計算方法は、個人の収入のうちその者の担税力を増加させる利得に当たる部分を所得とする趣旨であり、一時所得についてその所得金額の計算方法を定めた34条2項が「その収入を得るために支出した金額」を一時所得の金額の計算上控除するとしたのは、一時所得に係る収入のうちこのような支出額に相当する部分が個人の担税力を増加させるものではないことを考慮したものと解される
とし、
「支出した金額」とは、一時所得に係る収入を得た個人が自ら負担して支出したものといえる金額をいうと解するのが趣旨にかなうものである
として、納税者の主張を退ける逆転判決となりました。
本文は以下から見ることができます。
⇒判決文
下級審判決は以下からご覧下さい。
福岡高裁判決
⇒判決文
福岡地裁判決
⇒判決文
これから確定申告が始まる時期ですが、このような事例があった場合には、今までのような処理は出来なくなったので注意が必要です。
前回の第1小法廷判決に続き、第2小法廷でも同様の判決が出ました。
今回は平成15年12月26日に売買契約を締結し、平成16年2月26日に代金を受領し、同日に土地等を引き渡し、平成16年分所得税の申告をしたものです。
今回も9月22日の第1小法廷判決同様上告棄却となりました。
その結果、上告人らは有限会社の清算に伴う残余財産の分配により発生した配当所得と土地等の譲渡損失との損益通算を行うことにより合法的に税負担を軽減することを計画していたが、全体として5億1700万円を超える損益通算が否定されることになり、極めて甚大な損害を受けることになりました。
判決内容は、第1小法廷判決を丸写ししたかのようなものです。
9月22日と9月30日の判決部分の差異一覧表は以下からご覧下さい。
これ以外の違いは、須藤、千葉の2人の裁判官の補足意見があることです。
⇒遡及立法に関する最高裁判決の差異一覧表
平成21(行ツ)73
通知処分取消請求事件
平成23年09月30日
最高裁判所第二小法廷 判決 棄却
裁判要旨
平成16年法律第14号附則27条1項が,長期譲渡所得に係る損益通算を認めないこととした同法による改正後の租税特別措置法31条の規定をその施行日より前に個人が行う土地等又は建物等の譲渡について適用するものとしていることは,憲法84条の趣旨に反するものとはいえない
本文は以下から見ることができます。
⇒判決文
下級審判決は以下からご覧下さい。
東京高裁判決
⇒判決文
東京地裁判決
⇒判決文
平成16年に土地建物等の譲渡損失が他の各種所得と損益通算できないことになりましたが、平成16年4月1日施行の改正法を16年1月1日以後に行う譲渡から適用することが遡及立法ではないかと問題になっていましたが、今回最高裁は「法改正により事後的に変更されるのは、納税者の納税義務それ自体ではなく、特定の譲渡に係る損失により暦年終了時に損益通算をして租税負担の軽減を図ることを納税者が期待し得る地位」であり、「それ以上に一旦成立した納税義務を加重されるなどの不利益を受けるものではない」として憲法84条に違反するものではないとしました。
平成21(行ツ)73
通知処分取消請求事件
平成23年09月22日
最高裁判所第一小法廷 判決 棄却
裁判要旨
平成16年法律第14号附則27条1項が,長期譲渡所得に係る損益通算を認めないこととした同法による改正後の租税特別措置法31条の規定をその施行日より前に個人が行う土地等又は建物等の譲渡について適用するものとしていることは,憲法84条の趣旨に反するものとはいえない
本文は以下から見ることができます。
⇒判決文
下級審判決は以下からご覧下さい。
東京高裁判決
⇒判決文
千葉地裁判決
⇒判決文
3月24日の敷金返還等請求事件に続いて敷引特約が消費者契約法10条により無効ということはできないとされた事例です。
平成22(受)676
保証金返還請求事件
平成23年07月12日
最高裁判所第三小法廷 判決
裁判要旨
消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約が消費者契約法10条により無効ということはできないとされた事例
本文は以下から見ることができます。
⇒判決文
平成21(行ヒ)91
一級建築士免許取消処分等取消請求事件
平成23年06月07日
最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判
判示事項
公にされている処分基準の適用関係を示さずにされた建築士法(平成18年法律第92号による改正前のもの)10条1項2号及び3号に基づく一級建築士免許取消処分が,行政手続法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠き,違法であるとされた事例
裁判要旨
建築士法(平成18年法律第92号による改正前のもの)10条1項2号及び3号に基づいてされた一級建築士免許取消処分の通知書において,処分の理由として,名宛人が,複数の建築物の設計者として,建築基準法令に定める構造基準に適合しない設計を行い,それにより耐震性等の不足する構造上危険な建築物を現出させ,又は構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行ったという処分の原因となる事実と,同項2号及び3号という処分の根拠法条とが示されているのみで,同項所定の複数の懲戒処分の中から処分内容を選択するための基準として多様な事例に対応すべくかなり複雑な内容を定めて公にされていた当時の建設省住宅局長通知による処分基準の適用関係が全く示されていないなど判示の事情の下では,名宛人において,いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることができず,上記取消処分は,行政手続法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠き,違法である。
上告人は一級建築士であったが、平成18年9月1日付けで国土交通大臣によって免許取消処分を受けた。
その通知書には、処分の理由として次の通り記載されていた。
「あなたは、□□を敷地とする建築物の設計者として建築基準法令に定める構造基準に適合しない設計を行い、それにより耐震性の不足する構造上危険な建築物を現出させた。このことは建築士法10条1項2号及び3号に該当し、一級建築士に対し社会が期待している品位及び信用を著しく傷つけるものである。」
この行政処分に対し、その取消を求めた提訴したところ、1審、2審とも敗訴していたが、最高裁では、次のように判示して逆転勝訴となったものです。
「建築士に対する懲戒処分に際して同時に示されるべき理由としては、処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて、処分基準の適用関係が示されなければ・・・いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難である」
「免許取消処分はXの一級建築士としての資格を直接にはく奪する重大な不利益処分であるところ、その処分の理由として・・・処分の原因となる事実と・・・処分の根拠法条とが示されているのみで、本件処分基準の適用関係が全く示されておらず、その複雑な基準の下では・・・いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって免許取消処分が選択されたのかを知ることはできない・・・このような・・・事情の下においては・・・理由提示としては十分ではなく・・・本件免許取消処分は・・・要件を欠いた違法な処分というべきで・・・取消を免れない」
今までのように不正や違法があったか否かという実体面だけでなく、手続面にもスポットを当てる傾向が打ち出されました。
前回、ご紹介した福島第2原発についての最高裁判決では、
「行政手続は、憲法31条による保障が及ぶと解すべき場合であっても・・・常に必ず行政処分の相手方等に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるなどの一定の手続を設けることを必要とするものではない」
と判示しましたが、今回の判決はこれを見直して、行政手続と憲法31条とを考えるきっかけになるのではないかと期待されます。
本文は以下から見ることができます。
⇒判決文
平成2(行ツ)147
福島第二原子力発電所原子炉設置許可処分取消
平成4年10月29日
最高裁判所第一小法廷 判決 棄却
裁判要旨
原子炉設置許可の段階における安全審査の対象
裁判要旨
原子炉設置の許可の段階の安全審査においては、当該原子炉施設の基本設計の安全生にかかわる事項のみをその対象とするものと解すべきである。
本文は以下から見ることができます。
⇒判決文
福島第一原発の放射能もれが問題になっていますが、平成4年に福島第二原発の原子炉設置許可の段階における安全審査の対象についての最高裁判決が出されています。
判決によれば、
廃棄物の最終処分の方法
使用済燃料の再処理及び輸送の方法
廃炉
マン・マシーン・インターフェイス(人と機械との接点)
SCC(応力腐食割れ)の防止対策の細目等にかかわる事項
は、原子炉設置許可の段階における安全審査の対象にはならない
と述べており、福島第一原発のものではありませんが、この最高裁判決自体が問題であったと思われます。
是非、判決本文をお読み下さい。
平成21(行ヒ)473
不当労働行為救済命令取消請求事件
平成23年04月12日
最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判
裁判要旨
住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する者が,当該会社との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例
①不当労働行為を行わないこと,
②組合員の労働条件の変更等は本件各組合と事前協議し,合意の上で実施すること,
③組合員の契約内容の変更や解除は一方的に行わず,本件各組合と協議し,合意の上実施すること,
④組合員の手当,割増賃金及び出張費等を支払うこと,
⑤組合員の年収の保障(最低年収550万円)をすること,
⑥その貸与する機材の損傷等に関しては被上告人において負担すること,
⑦CE全員を労働者災害補償保険に加入させること等
を要求する要求項目はいずれもCEの労働条件その他の待遇又は加入した労働組合である上告補助参加人と被上告人との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって、かつ、被上告人が決定できるから、被上告人が正当な理由なく上告補助参加人との団体交渉を拒否することは許されず、CEが労働組合法上の労働者に当たらないとの理由でこれを拒否した被上告人の行為は労働組合法7条2号の不当労働行為を構成するとされました。
これは、実務上非常に大きな出来事であるといえます。
経営者の方には、特に全文を熟読されることをお勧めします。
本文は以下から見ることができます。
⇒判決文
同じ日に同種の判決がありましたので、こちらもご覧下さい。
年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員が,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例
⇒判決文
作業場を持たずに1人で工務店の大工仕事に従事するという形態で稼働していた大工が、労働基準法上の労働者に当たるかが問題になった最高裁判決は以下をご覧下さい。
⇒判決文