下級審判決紹介

このページでは最高裁判決以外の実務に役立つ判決文を掲載します。

はずれ馬券は必要経費か?

競馬の所得を申告せず、3年で約5億7000万円を脱税したとして、所得税法違反の罪に問われた元会社員の男性(39)の判決が平成25年5月23日、大阪地裁であった。西田真基裁判長は大量の馬券を自動的に繰り返し購入した場合、競馬の所得は「雑所得」に当たり、全ての外れ馬券の購入費が経費になるという初の司法判断を示した。無申告の違法性は認め、懲役2月、執行猶予2年(求刑・懲役1年)の有罪としたが、脱税額を約5000万円に大幅減額した。

裁判では、外れ馬券が控除の対象となる経費に含まれるか否かが、最大の争点となっていた。

大阪地裁
⇒判決文

株式保有特定会社の判定で納税者勝訴

非上場株式の評価で財産評価基本通達の一律適用は合理的でないと判断
財産評価基本通達の定めの上で,株式保有割合が25%以上である大会社を一律に「株式保有特定会社」に区分し,そのような大会社には「類似業種比準方式」を適用しないとする旨の取扱いが合理的であるか否かなどを巡り争われた事案について,東京高裁は2月28日,第1審判決と同様,税務当局の更正処分等を取り消した。国側は上告受理の申立てをしなかったため判決は確定している。

その後、国税庁は25%の基準を50%に変更するための通達改正をするようである。

以下の判決文は、税理士情報ネットワークシステム(TAINS)に掲載されたものです。
東京地裁
⇒判決文
東京高裁
⇒判決文

事業所得か給与所得かの判断は自己の計算と危険、独立した業務からの所得かどうか。

速報税理平成25年1月11日号に掲載された判決
1 本件は、麻酔科医師である原告が、自己が麻酔手術等を施行  した各病院から得た収入を事業所得として確定申告をしたと  ころ、上記収入は給与所得に当たるとして、更正処分等を受  けた事案である。
2 事業所得の本質は、自己の計算と危険において独立して反復  継続して営まれる業務から生ずる所得である点にあり、給与 所得の本質は、自己の計算と危険によらず、非独立的労務、 すなわち使用者の指揮命令ないし空間的、時間的な拘束に服 して提供した労務自体の対価として使用者から受ける給付で ある点にあると考えられる。
3 営利性や有償性を有し反復継続して行われる業務ないし労務 提供という経済的活動から得られる収入が事業所得に該当す るか給与所得に該当するかは、自己の計算と危険によってそ の経済的活動が行われているかどうか、すなわち経済的活動 の内容やその成果等によって変動し得る収益や費用が誰に帰 属するか、あるいは費用が収益を上回る場合などのリスクを 誰が負担するかという点、遂行する経済的活動が他者の指揮 命令を受けて行うものであるか否かという点、経済的活動が 何らかの空間的、時間的拘束を受けて行われるものであるか 否かという点などを総合的に考慮して、個別具体的に判断す べきである。
4 原告に対しては、定額の報酬が支払われ、時間が2時間を超 過した場合等には、割増された報酬が支払われるものの、手 術や麻酔施術の難易度や用いる薬剤等の価格などに応じて変 動する仕組みにはなっておらず、医療行為等に対する対価と して患者や公的医療保険から医療法人A会に支払われる診療 報酬の金額の多寡に応じて原告に対する報酬が変動する報酬 体系にはなっていないと認められる。
5 麻酔業務から生ずる費用は、基本的にA会が負担しており、 原告は、たとえば高額の麻酔機器を購入することによって生 じる費用(減価償却費)が麻酔業務から生じる収益を上回る などして麻酔業務による損益計算が赤字になるというような 事業の収支から一般的に生じ得る危険を負担することはな い。
6 原告は、麻酔を担当する前日に、A会からファクシミリ送信 の方法により、患者数や各手術の内容等の情報の提供を受け てこれに従っていたことが認められ、このような麻酔という 業務を行う対象、場所、時間など業務の一般的な態様につい てA会の指揮命令に服していたものと認められる。
7 原告の勤務時間は、A会との契約により定められていたこ と、原告の業務は、A会の経営する病院内で術中麻酔管理等 を行うことであったこと、A会においては他の非常勤職員と 同様に出勤簿で原告の勤務時間を管理していたことがそれぞ れ認められ、原告はA会の空間的、時間的拘束に服していた と認められる。
8 以上によれば、原告がA会から支払を受けた報酬は、自己の 計算と危険において独立して営まれる業務から生ずる所得で あるということはできず、原告は、医療法人の指揮命令に基 づいて、医療法人による空間的、時間的拘束を受けて行った 業務ないし労務提供の対価として報酬を受けたものであるか ら、所得税法28条1項に規定する給与所得に当ると認める のが相当である。
9 原告は、麻酔医療について高度の専門性を有し、手術の指揮 監督者として独立して業務を行っているから、原告の収入が 事業所得に該当する旨主張する。しかしながら、業務遂行に 必要な様々な判断が自分自身でできるからといって、他者の 指揮命令に服していないということにはならないと解すべき である。このことは、国会議員や裁判官など、職務遂行に必 要な判断等については、他者の指揮命令に服することなく独 立して行っている職種についても、その報酬は給与所得とさ れていることからも明らかである。

以下の判決文は、税理士情報ネットワークシステム(TAINS)に掲載されたものです。

⇒判決文

従業員持株会がみなし配当を受けたとして約56億円の源泉所得税の納税告知処分

税務通信3228号(平成24年9月10日)に掲載された判決
総合建設業を営むA社(原告)は従業員持株会Bに対し約320億円の貸付けを行っていたが,従業員持株会Bは資金不足により返済ができなかったため,A社は従業員持株会BからA株(自社株)による代物返済を受けた。この取引について,東税務署は代物弁済による消滅債権約320億円のうち約280億円は「みなし配当」にあたり,A社には所得税の源泉徴収義務があるとして,源泉所得税約56億円の納税告知処分等を行った。

原審の大阪地裁判決及び控訴審の大阪高裁において納税者敗訴で現在上告中です。
以下の判決文は、税理士情報ネットワークシステム(TAINS)に掲載されたものです。

大阪高裁の本文は以下から見ることができます。
⇒判決文

原審、大阪地裁判決文は以下からご覧下さい。
⇒判決文

23年税制改正で養老保険を利用した租税回避スキームに対応

平成23年度税制改正大綱59頁に次の記載があります。

⑭居住者が支払を受けた生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の金額の計算上、その支払を受けた金額から控除することができる事業主が負担した保険料等は、給与所得に係る収入金額に算入された金額に限る旨を法令に規定します。
(注)上記の改正は、平成23 年4月1日以後に支払われるべき生命保険契約等に基づく一時金について適用します。

上記に基づき、所得税法施行令183条4項3号及び184条3項1号がそれぞれ次のように改正されました。

183条4項3号において、保険料又は掛金の総額から控除する金額として、
「事業を営む個人又は法人が当該個人のその事業に係る使用人又は当該法人の使用人(役員を含む。次条第三項第一号において同じ。)のために支出した当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金で当該個人のその事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金額又は当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上必要経費又は損金の額に算入されるもののうち、これらの使用人の給与所得に係る収入金額に含まれないものの額(前二号に掲げるものを除く。)」

とし、

184条3項1号において、保険料又は掛金の総額から控除する金額として
「事業を営む個人又は法人が当該個人のその事業に係る使用人又は当該法人の使用人のために支出した当該損害保険契約等に係る保険料又は掛金で当該個人のその事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金額又は当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上必要経費又は損金の額に算入されるもののうち、これらの使用人の給与所得に係る収入金額に含まれないものの額」

とされました。

これは福岡地裁及び高裁で納税者勝訴となった判決に対応したものです。

福岡高裁で「行政による恣意的課税から国民を保護することを目的とした租税法律主義の趣旨からすれば,国民生活の法的安定性と予測可能性を保障するため,課税要件はできるだけ一義的で明確でなければならないのであり,国民に対する課税は,同要件を規定する法令等の文言にできるだけ忠実に行われなければならない。そして,その結果,仮に結論において控訴人が指摘するような不合理が生じたとしても,それは法令等の不備によるものであるから,その是正は当該法令等を改正することによってなすべきであって,解釈の名の下に規定されていない要件を付加することにより,国民に予測できない課税をすることは許されない。」と判示されたことから、法令の改正をしたものです。

平成21(行コ)11
所得税更正処分等取消請求控訴事件
福岡高等裁判所
平成21年07月29日判決

判示事項
養老保険契約に基づいて受領した満期保険金の額から自己が負担した保険料及び自己の経営する法人が負担した保険料の合計額を控除した額を一時所得として所得税の確定申告をした者に対し,前記法人が負担した保険料の額は所得税法34条2項にいう「収入を得るために支出した金額」に当たらないから一時所得の金額の計算上控除することはできないとしてされた更正処分が,取り消された事例

本文は以下から見ることができます。
⇒判決文

なお、福岡地裁の判決文は以下をご覧下さい。
⇒判決文

国家賠償請求は、不服申立手続を経なくても可能

平成19(ワ)2175
国家賠償請求事件
仙台地方裁判所第3民事部
平成22年09月09日判決

判示事項の要旨
冷凍倉庫用の建物に係る固定資産税等の課税について,被告担当職員には,固定資産評価基準に係る非木造家屋経年減点補正率基準表の区分7(2)にいう「冷凍倉庫用のもの」を,文理解釈に従った冷凍倉庫と解釈した上で,課税対象物件の現況を調査し,社会通念上,文理解釈に従った冷凍倉庫として実際に使用されていると判断された建物については,上記基準表区分7(2)に定められた経年減点補正率を適用すべき職務上の注意義務があったにもかかわらず,これを怠ったことから,国家賠償法1条1項の違法性及び過失があると判断された事例。

平成22年06月03日最高裁判所第一小法廷判決で判示された、「違法な固定資産税の賦課決定によって損害を被った納税者は,地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得る」がありましたが、今回は仙台地裁で同様に冷凍倉庫の固定資産税評価誤りをめぐる事件で、納税者の主張を認め、国家賠償法に基づき、過大徴収税額とそれに対する年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる判決がありました。

本文は以下から見ることができます。
⇒判決文

住宅取得等特別控除が認められた事例

所得税更正処分等取消請求事件
札幌地方裁判所平成12年(行ウ)第21号平成14年6月28日判決

元税務署員が住宅取得等特別控除を適用して申告したところ
税務署長が控除を否認して更正処分をしたため、この取消を
求めたものです。
札幌地方裁判所において、納税者勝訴の判決があり、確定したものです。
税理士情報ネットワークシステム(TAINS)に掲載されたものです。

本文は以下から見ることができます。
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居住用財産の特別控除

共有家屋の一部を取り壊してその敷地を譲渡した場合に、居住用財産の特別控除の適用があるとする判決がありました。
原審の東京地裁判決を取消して控訴審の東京高裁において納税者勝訴で確定したものです。
税理士情報ネットワークシステム(TAINS)に掲載されたものです。

本文は以下から見ることができます。
⇒判決文

原審、東京地裁判決文は以下からご覧下さい。
⇒判決文

特殊支配同族会社の役員給与損金不算入は違憲ではないとされた事例

特殊支配同族会社における業務主宰役員給与の損金不算入を定めた法人税法35条は、平成22年度税制改正において廃止されたが、同条が憲法に違反するとして提訴された事件があり、東京地裁において違憲ではないとする判決がありました。

本文は以下から見ることができます。
⇒判決文

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坂 会計事務所は
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